下咽頭がん顛末記(2)耳鼻咽喉クリニックから➡地元の総合病院へ

<幸運その2> 耳鼻咽喉科受診からがん確定までのスピーディーな展開

ところで病気に縁の無い人生を過ごしてきた私は、

ん?耳鼻科?なんで?

という感じだった。

耳鼻科が<喉>も扱う診療科だったとあらためて再確認した次第である。

それにしても、素人考えでは耳と鼻と喉とはそれほど専門性が関連しているとは思えない。

むしろ、喉は食道の続きであることから咽頭がん食道がん胃がんの延長線上にあるのではないかと考えらる。

そして、その素人考えが、実は後ほどの治療方法の選択に大きく関わってくることになるのだ。

 

胃カメラのあと、A先生のクリニックから妻の運転で帰る途中(胃カメラ検査は部分麻酔を施されたので自分では運転を控えた)、逆流性食道炎の薬を買うために家の近くの薬局に寄ることにした。

ラッキーなことに、そこにたまたま耳鼻咽喉科のクリニックがあったのである。

正直、私はA先生のアドバイスを軽く考えていた。

この時の私はまだ自分が進行性のがんだとは思いもよらず、逆流性食道炎の延長くらいの甘い考えでいた。

しかし、妻がお昼過ぎだけどまだ受付はやっていると、半ば強引に耳鼻咽喉科に立ち寄ることになった。

*たまたま、薬局の隣りに耳鼻咽喉科のクリニックがなかったら、そして、

*この時、妻を帯同していなかったら、

ズボラな私は、耳鼻咽喉科にはそのうちにいけばいいとしばらく放っておいたと思う。

あとで思えば妻に感謝である。

 

地元の耳鼻咽喉科クリニックに飛び込んだのは土曜日だったが、日曜と休日の月曜を挟んで、三日目の火曜日にその耳鼻咽喉科の先生から電話をもらった。

そして、翌日、つまり、胃カメラ検査から四日目の水曜日、私は紹介状を持って地元の市民病院に行くことになった。この日、Y大学病院の先生が、たまたまその市民病院へ来ているとのことであった。

 

地元の市民病院の受付は患者でごった返していた。

因みに大病院では紹介状の無い人は初診料5千円を払わなければならないはずだが、それでもなんと患者が多いことか。

世の中には紹介状で治療を受ける人がこんなにいるのかと驚いた次第である。

見舞いや付き添いで病院を訪れることはあったが、私自身が、診察を受ける為に待合室に座っているのは生まれて初めての経験であった。

それにしても、大病院では、初診受付から始まって、それぞれの診療科での待ち時間、会計の待ち時間と”待つ”時間がなんと多いことか。もう少し何とかならないものかと思う。

見回すと、当たり前のことだが、ここにいる人々は皆何らしかの病気を抱えている人かその付き添いの人で、決してその表情は明るいとは言えない。必然的に病院の待合室の空気は重苦しいものとなる。

私自身も不安で何とも言えない沈んだ気持になっていた。そんな中、二人の小さな子供達がはしゃいで走り回っていた。そしてそのお母さんが子供たちに、「静かにしなさい、喜んで病院に来ている人は誰もいないのよ」と諭していたのが印象的だった。

 

結局、私はその市民病院で、近くの大学病院から出向いて来ているB先生の診察を受けることになった。

B先生は若い?先生で、失礼ながら、その時の第一印象は何となくチャラそうで信用できるのか不安になった。後から考えると真面目で一生懸命な先生だったと思うのだが、首から派手なネックレスが見え隠れしていたのが少し気になった。

その最初の診察で、生体検査の為に皮膚の一部を内視鏡で採取して検査に回すことになるのだが、ここで初めて”がん”かもしれないと伝えられる。

私の希望的観測は吹っ飛んで頭の中が一瞬真っ白になった。

それにしても、がん宣告という重要な”儀式”はこんなに簡単に行われるものなのか?

昔は、がんということを本人に伝えるかどうかも、ためらっていた時代があったが(少なくても私の両親の時はそうだった)最近はそういうものかと考えてしまう。

そして皮膚の一部を内視鏡で採取して検査に回すのだが、鼻の穴から内視鏡を突っ込まれて苦しんでいる最中、同僚の女性医師?と「こんなに奥まで、、」とか不安をあおる会話が聞こえてくるので、私は結構苛立っていたのを覚えている。

そしてその日のうちに、造影剤CT検査と血液検査、二日後には造影剤MRI検査へと続いていった。そして、それぞれの検査には一々承諾書にサインを求められるのだが拒否できない身としては何ともやるせない。

さて、”がん”かもしれないと告げられたとき一瞬頭が真っ白になったと言ったが、その後はむしろ頭の中はカオスの状況になっていた。

何故なら色々な考え、心配事が頭をよぎっていくからだ。

それぞれの検査の間の長い待ち時間の間にも、全摘手術で声帯を無くした時の生活とか、エンディングノートを書かなければとか、保険の確認とか、墓のこととか、机の中の整理をしなければとか、大小様々な懸念が頭をよぎっていく。

翌週の月曜日に検体の検査結果が出て、私の喉の白いできものは正式に初期の”下咽頭がん”と判明した。

幸い初期の段階ではあったが、下咽頭の広範囲に広がっている”扁平上皮がん”とのことであった。

ここまで、最初のA先生の指摘からわずか9日後というスピーディーな展開であった。(続く)