=病室=
病院の病室、カーテンで区切られた狭いスペース、そこは普段の生活から遮断された空間であり、いやがおうにも、非日常の世界になる。
つまり、会社の社長であろうが、頑固なラーメン屋の店主であろうが、昨日までの日常とは切り離され一人の”ただの”患者となる。
その人に、どんな立派な歴史があり、どんな主義主張を持って生きてきたていたかなんて関係ない。病室ではただのいち患者というカテゴリーで括られるしかないのだ。
ところで、私自身も、ガンかどうかの検査をしただけで、「まだ」病人ではないはずだが、30分ごとの体温測定や血圧測定など、対応の全てが病人扱いになっていた。看護師さんも非常に親切で気を使ってくれた。
手術(検査)の際は、当然、痛みは無かったし、麻酔の効果が消えてからも痛みは全くなかった。
ただ一点、トイレに行って、放尿する際には、尿道に痛みが走り、潜血で尿がピンク色になっていた。
尿道(前立腺)の一部に傷をつけているのだから血が出るのは当然なのだが、この色が消えるのには2週間程度かかるかもしれないとのことだった。
さて、麻酔が覚めた午後からは、トイレ以外はほぼ健康人だった私は、相当、時間と体を持て余すことになった。
この病院の泌尿器科の病棟フロアは、中心にあるナースステーションを廊下と各病室が取り囲んでいた。時間を潰す為にそのフロアを一周してみたり、一階にある院内のコンビニに行ったりしてみたが、殆どの時間は、何とはなしにベットでテレビを見ているしかなかった。
勿論、その際には、もっぱら3メートルケーブルのTVイヤホンが重宝した。
入院中、ただ一つ面倒な作業は、毎回の尿の際に、時間と尿の量を記録しなければならなかったことだ。
余談だが、
目盛りのついた紙コップで尿量を測った後は、紙コップを備え付けのビニールの袋に入れて、ナースステーションへ持っていかなければならなかった。これが一番面倒だった。多分捨てる場所がきまっていたのであろう。毎回、たとえ夜中でも、使用後の紙コップは看護師さんに手渡していた。
=退院=
特に、体調に変化もなかったので、予定通り一泊で退院した。
朝、施術をしてくれた泌尿器科医の先生、もともとの担当医の先生、そして、麻酔科の先生が、それぞれ、入れ替わりに様子を見に病室まで来てくれた。
この病院はそういうフォロウが行き届いているのだと感じた。
生検の結果は、2週間後となったので、あと少し、悶々とする日々が続く。
ただ、前立腺がんの検査値が基準を超え、触診で固い部分があり、MRIでも影があったことで、多分、前立腺がんだろうという覚悟はできている。
不思議だが、何故か、3年前の下咽頭がんの時とは違い、気持ちが落ち着いている。