私の前立腺ガン(2)密封小線源治療 体験記

=続き=

手術台(診察台?)の上で麻酔から目が覚めた。

幹部にやや鈍痛があったが、我慢できないほどではない。

小線源を挿入する為に、針を何本か挿しているので、その痛みだと思った。

そして、私の第一声は、「何個はいりましたか?」だった。

立ち会った何人かの先生の一人から、41個ですという答えが返ってきて、やっぱり、そんなものかと思った。

通常、小線源治療において、挿入される線源は、50個~100個と言われている。

私の前立腺の大きさは、標準より小さく、ホルモン治療で更に小さくなっていた筈だから、41個という答えになんとなく納得した。

なぜだか、担当医は”手術”と言わずに、施術という表現をしていた。考えてみれば、確かに手術というほどのものでは無いのかと思った。(針を刺すだけのことなのだ)

 

施術の前日

まだ、コロナ下の入院だったので、付き添いは不可と言われ、一人で病院に出向き、入院の手続きを行った。

そしてその日は、簡単な検査と、担当看護師さんからのオリエンテーション、更に、麻酔医の説明があった。

ただ、それが終わると、あとは何もすることはなかった。(WBCが開幕して、夜は初戦の中国戦をテレビで観ていた)

夕飯はお粥で、寝る前に下剤を飲んだ。

つまり、この日は、翌朝の施術のための準備の為の時間だった。

 

施術当日

翌朝9時ごろ、手術着に着替え、病室から看護師さんと一緒に、別東の施術室まで歩いて向かった。この時はすでに、点滴のチューブが入っていたので、片手で、点滴の下がったスタンドをガラガラ引きながらだ。

部屋に入ると、顔見知りの担当医の他に、4~5人のスタッフがいたと思う。

そして、言われるままに、診察台に自分で横になって、作業の準備が始まる。

耳元で、「口の布マスクをとって、酸素マスクに変えます」という声が聞こえたのは覚えている。その時を最後に意識が無くなった。

時間にして、1時間ほどの治療だったが、目が覚めた時にはすべて終わっていた。

そして、ベッドに乗せられたまま、治療室から自分の病室まで運ばれた時、病室の時計は10時半ごろだったと記憶している。

 

ところで、この小線源治療の場合、病室は個室が決まりになっている。

なぜなら、私の体から出る放射線を、1日程度、管理する必要があるからだ。

(なので、通常上乗せされる個室の特別代金は、無料だった)

そして、部屋のネームプレートの横には、「放射線管理区域」という物々しい紙が貼られていた。(部屋の外には出られなかったので、実際には見ていないが)

 

点滴と尿のチューブが入っていたので動けないし、放射線管理という、ちょっと大げさと思える管理だったので、その日は、終日ベッドの上で過ごさなければならなかった。

看護師さんの定期的なチェック(検温、酸素飽和度、血圧に加え、溜まっている尿の色)があった。

私は、上半身しか体を動かせないので、テレビをみているだけだったが、丁度、野球のWBCの放送があり、(この日は第二戦の韓国戦だった)暇つぶしになって助かった。

 

施術翌日(入院3日目)

午前中に、体に付けていた二つのチューブが外れた。

午後、放射線技師が来て、特殊な機械で、部屋の中の照射線量をチェックした。私自身も壁際に立たされ、1m位離れたところから、放射線量をチェックされた。

そして、数値に大きな異常が無かった為、管理区域が解除され、普通の病室に戻った。

その後、自由に院内を歩けるようになったが、その時には、物々しい紙はすでに取り外されていた。

とは言っても、私自身からでる放射線量が気になるところである。

渡された小線源の小冊子には、

「胸のX線集団検診;一回当たり0.05mSv(ミリシーベルト)、胃のレントゲン;0.6mSv、胸部CT;6.9mSv.の被爆を受けることになるのに比べ、この小線源治療は、体表面から1Mで0.028mSv/時間ということで、非常に低い」

と書いてある。

また、飛行機でニューヨークを往復すると、被爆料は0.19mSvだそうだ。

私自身が、微量とは言え、放射線を出している事実が気になるところだが、日常の放射線被爆料については、いろいろ説明されてもあまり頭に入ってこなかった。

一つだけ確認したのは、私は猫をよく膝に乗せるので、猫に与える影響を聞いてみたが、そういうデータは無いが、全く問題ないだろうということだった。

そして、この体内の放射線は、2ヶ月ごとに半減していき、約1年後にはほぼ無くなるとのことだった。

 

退院(入院4日目)

朝食後、看護師さんの簡単な検査を受け、来たときと同じように一人で退院した。

痛みは特に無く、入院した時と体調は変わらなかった。

自分にとっては、大きな決断という小線源治療だったが、入院施術前後で、大きな変化は感じられず、少し拍子抜けしたような気持ちであった。

 

もっとも、私の場合は、悪性度の高いガンだったので、トリモダリティ治療(=ホルモン治療+小線源+外照射)の途中である。

約1ヶ月後から、放射線の外照射治療が始まることになる。

 

以上、2回にわたって、私の前立腺ガンに対する考え方、選択と体験を書いてみた。

小線源治療の施術自体は(4日間の入院は要するが)短時間で、手術のような大変さは無いと言える。

但し、副作用として、人によって軽い重いはあるが、短期間の頻尿や、排尿障害が起こる。これは、前立腺から放射線が出ているのだから、仕方ないといえる。

 

これから、前立腺ガンの治療を選択する人の参考になれば幸いである。